最強の引越しそばをつくる(寄稿:小林銅蟲)
公開日 2021年03月26日
※撮影は、新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じた上で実施しました
こんにちは。引越ししてますか? 私は作業部屋と寝室が実質同じ部屋なので今すぐしたいです。ただちに。でもできないので、まずは引越しそばから攻めていきましょうという話になりました。
引越しそばについてですが、「引越しの挨拶で配るもの」からいろいろあって今は「縁起がいいから引越しの時に食う」みたいな感じになっています。全国各地で引越しがあり、そばが発生します。では「そば」を豪華にすればするほどもっと縁起がよかろうということで、最強の引越しそばをやっていきます。
ところで私はそばについてはヌードルメーカーで自作した経験がありますが、あれは粉と水を入れてボタンを押すだけですし、実質素人です。攻めの引越しそばをつくるにあたり、以前めんつゆ制作で参考にした「かないまる」氏のサイトで全面的に学習することにしました。
▽蕎麦のページ
とにかく情報量が多く緻密なので、再現性も期待できるし失敗した場合も原因のトレースがしやすいと考えたわけです。
正確に再現するためには指定どおりの道具と材料を使う必要があります。さて、
そば道具はそば道具屋さんにあり、ございますが……一式そろえるとなかなか熱いことがわかりました。なお使うべきそば切り包丁のスペックは「33cm以上」のため、該当する包丁を選ぶと1万5000円ほど上乗せになります。高級グラフィックボードの価格表を眺めて脳を麻痺させてください。
鼻息荒く道具を注文したところでつゆの話をします。「かえし」と「だし」を混ぜたものが「つゆ」です。まず「かえし」から仕込みます。この子は寝かせる期間が必要だからです。
かえしの材料
なぜこの方々なのかは、かないまる氏のサイトに全部書いてあるので読んでください。他のことも大体そうです。一応補足すると、醤油に「そば膳」でなく「本膳」を使っているのは、寝かせる期間がそば膳より短めでもよさげなのと、Amazonで買おうとするとそば膳は一升瓶を3本から注文する必要があり、かなりすごいからです。みりんについても量と入手難易度の兼ね合いです。
一升瓶にはサービスでちょっと多く入っている場合があるようなないような気がするので、きちんと計りましょう。あとでサイトを見たところ、本膳の比重が明らかなためグラム計量でも問題なかったので感動しました。本膳1800mlで2142gです。
これは邪道技の「直Anova83度法」です。なにが邪道かというと、ターゲットの温度が同じ以外は本来の手技を無視していることと、Anovaを湯煎ではなくダイレクトに使用していることの2点です。しかしメリットはあり、液体が蒸発しにくく焦げ付きも生じません。
はい。
はい。
竹ひごはAnovaの姿勢維持のための苦しまぎれです。
そんなわけでかえしが完成しましたが、いろいろあり寝かせる期間がそば打ち本番まですこし足りません。
ので、ガジェットを用意します。超音波熟成器です。酒に使うと性格がおとなしくなったことがあります。20年前の話ですが……。
おまじない程度の気持ちでこうしておきます。
で、仕事場に移動して当日です。予習をたいがいサボったため実演動画があったことも当日知り、ダッシュで学習しています。単位を落とす学生みたいですね。人生には見えない単位がもっとたくさんあります。
そばを打つ前にだしを仕込んでいきます。かないまる氏のページは公開が10年以上前なので、指定された厚削り節の業者のサイトがつながらず、適宜用意しました。
そして水。そばとだしには軟水と相場が決まっており、おるのですが、こちらも指定されたポルトガル産の水の流通が止まっているようでした。そこで満を持して登場したのが硬度0というなんかすごい水です。今回は硬度の部分を信じて使用していきます。
だしは厚削り節を水からしばくとできます。
よく出るように厚削り節をあらかじめかるく粉砕しておきます。
あくまで軽く
はい。
だしも邪道なとり方をします。95度を超えるとAnovaは挙動があやしくなるので95度よりちょっと下くらいを指定し、設定温度に到達してから1時間くらいやります。
おまたせ! そばです。おすすめっぽい粉をいろいろ買いましたが、指示をよく読んだところ「白樺」が使用されているので、今回もそのようにします。白樺だけおもむろに「上級者向き」と書いてあって怖い。
粉ふるいはうちの裏ごし器が使えるかなと思って買わなかったんだけど、試したら目が細かすぎてだめだったのでダッシュでハンズで買ってきました。カッコつけずセットを全部買え。
左下から、まな板、めん棒、ふるい、そば切り包丁、ざる、こま板、そば粉、こね鉢
いきなりデカい量やってしくじるとやばいので100gから始めます。
粉の重量の51%の水を4つに分けて加えます。この4つは重量比が決まっており、それぞれ水全体量の80%・10%・7%・3%です。しかも3%の水は様子を見ながら適宜投入していくという超精密なデッキを組んだだけで一機減りました。
複雑な計算
さあ水を投入だ、投入したらただちに手で高速撹拌しないといけない、なぜ撹拌するほうの手でコップを持っているのか? 完全にテンパっているからです。
指先はこね鉢につけて、かつ手のひらには粉や水がつかないよう全体を高速で撹拌します。
力を加えずにダマをバラして粉に水を分散させます。むかし仕事中にスパークして階段からダイブした時の頭の傷がよく見えますね。
2回目の加水は左手を使っています。えらいですね。
3回目、様子が変わってきました。あんな微量の水で……
4回目
丸まりました。マジかよ あと少しでも水が多いとベタついて破滅するというのが触っているとなんかわかりますね。とにかく物性がデリケートで怖いし、指示どおりにやったら着地できたのも怖い。
気をよくして菊練りで空気を抜きます。全くできません。諦めました。
諦めた様子
諦めたのち押し潰して扁平に
のすぞ~
まず両手でグッグッやって円盤をすこしでかくします。これはなんかできた。
そして棒
丸く広げたら四隅をつけて正方形に寄せていく
四角がなんなのかわからなくなり脳が宇宙へ行ってしまった様子
なんかいけたような気がするので切ります。
ちぎれずここまで到達したことに気を取られて、太さについて全く見えていません。
30分くらい置いてから茹でるとよいらしいので、そのようにします。
同様にして500gに挑戦
いける いけるぞ
扱う重量が増えることにより、水の管理は楽になる一方で伸ばした生地が自重でちぎれやすくなるなどのリスクが出てきます。
ヒー
ウヒー
そんな午後でした
ところでだしができているので、濾します。
かえしとだしを体積比1:3で混ぜたらつゆの完成。だしが1325mlなのでかえしは442mlです。やりましたね。
隅っこでつゆに水溶き片栗粉を加え、あんにしています。
した
豪華そばなので豪華食材がでてきます。これは紅ズワイガニ。
これをなんていうかしゃぶしゃぶにして肉を分けます。
分けている
殻は細かく切ってスープを取ります。
濾すときれいなカニエキスが……
ほらね
トリュフなんですけど、保管して調子こいてたらちょっとカビた。ごめんなさい。
粗熱を取る水と締める氷水。絵面が一気にいつもの感じになって参りました。
茹でるお湯は多いほど麺を入れても温度が下がらず保ててグッド カルキ等を飛ばすため30分以上前から沸かしています
では茹でましょう。40秒くらいにしました。
茹でた、冷やす
塩で味を決めたカニ汁を張ります
カニON
トリュフON
かにトリュフ塩そばができました。なぜつゆを使っていないのかというと、このカニが異常に旨いのとトリュフの香りがあるので、つゆの風味が被さったらだめかもしれないと思ったからです。
食べてみましょう
プールで溺れた時の味がします。これは久々に派手にやってしまいましたね。トリュフとカニとそばの組み合わせはうまいものであるという記憶があるので、静かにパニックを起こしています。
まず最低限つゆは使わないとだめだという判断と、ならばウニも参戦させようという結論が出ました。ウニさんよろしくお願いします。
ゴー
カニウニ冷やしあんかけそばです。トリュフは怖いのでなし。
いってみましょう ていうかね、このそばのビジュアルがうどん
すべてわかりました。そばが太すぎるせいで完全に異物と化しており、シナジーが失われています。すなわちカニとウニとつゆの味がして、異空間にそばがいます。
私はざるそばを食べようと思います
そばにおける太さの要素がここまで劇的だとは正直まったく考えていなかったので、深い衝撃を受けています。つゆの味はベストなので、これ極細に切ってたらめちゃくちゃうまいそばだわ、と感じる味です。
白樺の本来しゃっきりとした歯ごたえがむしろ仇となり、そばが太いとものすごく固くてよく噛まないと風味が出ず、「口に入ってくる、なんか固くて太い物体」になります。これはすごい 逆に……
なぜそばが太くなったかというと、生地がちぎれたり乾燥したりするのを怖がった結果、のしが甘く十分に薄く広げることができず、厚い生地から仕上がりのバランスを取ろうとしたら、切り幅も広くなってしまったというわけです。
これはちぎれてもいいので薄い側に倒したほうが結果的に食えるそばになると考えられます。のした生地の面積から厚みが算出できるわけで、私のような者は天井からレーザー物差しを照射して幅を計測したほうがいいと思いました。レーザーがない場合は巻き尺でいいと思います。
また切った生そばを放置していたらくっついて破滅したのですが、これは切る段階から打ち粉が不足していたことが考えられます。なんとなく打ち粉をケチっていた感じはあるのですが、購入したそば粉の量が気持ち的に足りていなかった可能性があります。そばだけで難しいのに豪華食材というテーマがあったのも作業から余裕を奪っていたのでしょう。やはりマージンはなんでも多くとっておくべきだなと思いました。
さて、良かれと思ってつくったこの豪華引越しそばですが、道具や材料などあわせて、合計で13万5000円掛かりました。縁起物としていただくには少々業が深すぎるかもしれません。引越しの神が怒る。
私は善良ですので、そば打ちを極めてから引越しをすることにしましょう。そばの国は出口が全く見えませんし、20年後にあなたの隣に引越してくるかもしれません。
残ったトリュフは後日、NTTKG(納豆トリュフ卵かけご飯)にしました。これは納豆の香りが意外と合ってうまい。
よかったですね。ではまた。
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